サンガ川流域の3か国保護地域 生物相

サンガ川流域の3か国保護地域

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/09 06:03 UTC 版)

生物相

ヌアバレ=ンドキ国立公園のマルミミゾウ
ヌアバレ=ンドキ国立公園のゴリラ
ロベケ国立公園のヒョウ

登録範囲は熱帯林が広がっている地域である。熱帯林にはところどころ開けた湿地帯が存在している。それらはバイ (baï) と呼ばれるが、規模が小さいものはヤンガ (yanga) と呼ばれる[3]。バイを作るのはマルミミゾウである。マルミミゾウは、熱帯の植物からだけでは生存に必要なミネラルを獲得できないため、特に玄武岩の浸食が見られる土地を掘り返し、結果的に水辺にミネラル分の豊富な土壌の露出した湿地を作り出す[23]。これがバイである。ミネラル分を必要とするのはマルミミゾウだけではないため、バイには数多くの野生生物たちがやってくる[24]

また、登録範囲は、類人猿の貴重な生息地となっている点も重要である。近隣諸国の世界遺産には、ゾウの生息数で上回るロペ=オカンダの生態系と残存する文化的景観ガボンの世界遺産、2007年)、植物相に秀でるジャー動物保護区(カメルーンの世界遺産、1987年)が存在していた[25]。にもかかわらず、この世界遺産が登録されたのは、面積の広大さもさることながら、その中に棲息する類人猿の数が重視されたことが大きかった[25]

それらも含め、植物相動物相で特徴的な種を挙げると、以下の通りである[26]

動物相

哺乳類は116種が棲息し、霊長類ニシローランドゴリラ絶滅寸前)、チェゴチンパンジー英語版絶滅危惧種)、ハイアカコロブス英語版シロエリマンガベイ英語版クロコロブス英語版など18種である[27][21]。ほかにも危急種マルミミゾウカバ準絶滅危惧ヒョウアフリカゴールデンキャットボンゴオオセンザンコウ英語版などが棲息している[27]。ボンゴ以外にもシタツンガなどの数種類の絶滅の危機に瀕しているレイヨウが見られる[28]

ラムサール登録地を含んでいるように、鳥類も豊富で429種が確認されている。その中には、危急種のヒメチョウゲンボウキイロヒゲヒヨドリ英語版ズアカハゲチメドリ英語版などが含まれる[27]ニシツバメチドリズグロキハタオリ英語版も見られる[20][21]

ほかに爬虫類両生類がともに約30種、魚類が246種確認されている[27]。具体的な種としてはナイルワニヒゲナガヒレナマズ英語版ムベンガなどが挙げられる[20][28]

植物相

確認されている植物は1,122種になる[29]。そのうち、世界遺産登録の推薦書31頁で言及されているIUCNレッドリストで評価済みの種は以下の通りである[30]

また以下の種は推薦書で Vulnerable と評価されていることとされているものの、実際にはIUCNレッドリストにおいては未評価である。

他にはラフィアヤシラン科クズウコン科の植物も見られる[20][21]


注釈

  1. ^ Cheek (2004) では種小名が molundana とされている。
  2. ^ 世界遺産登録の推薦書においては Vulnerable 扱いとされている[30]が、IUCNレッドリストver 3.1では2009年と2018年の2度に評価が行われ、いずれの際も Vulnerable より深刻度の低い Least Concern の評価とされている[44]
  3. ^ カナ表記は『朝日百科 植物の世界』第6巻、朝日新聞社、1997年、317頁、ISBN 4-02-380010-4 より。
  4. ^ 1998年のIUCNレッドリストでの評価は Endangered で、世界遺産登録の推薦書においても同じ扱いとされている[30]が、IUCNレッドリストver 3.1では深刻度のより低い Least Concern の評価に変更されている[47]

出典

  1. ^ ステファン・ブレイク 2012, p. 2
  2. ^ a b 岡安直比 著「ヌアバレンドキ国立公園」、竹内啓一 編『世界地名大事典3 中東・アフリカ』朝倉書店、2012年、723頁。 
  3. ^ a b c d e UNEP-WCMC 2012, p. 3
  4. ^ a b c IUCN 2012, p. 43
  5. ^ 古田 & 古田 2009, pp. 18, 21, 25
  6. ^ IUCN 2014, p. 41
  7. ^ IUCN 2012, pp. 42, 47
  8. ^ a b IUCN 2012, p. 47
  9. ^ 日本ユネスコ協会連盟 2013, p. 15
  10. ^ 世界遺産検定事務局 2013, p. 111
  11. ^ 古田 & 古田 2013, p. 64
  12. ^ 谷治正孝監修『なるほど知図帳・世界2013』昭文社、2013年、p.136
  13. ^ 正井泰夫監修『今がわかる時代がわかる世界地図・2013年版』成美堂出版、2013年、p.140
  14. ^ 西和彦「第三六回世界遺産委員会の概要」(『月刊文化財』2012年11月号)、p.49
  15. ^ a b c Sangha Trinational - Multiple Locations世界遺産センター
  16. ^ ダグラス・H・チャドウィック 1995, p. 32
  17. ^ ジョシュア・フォア 2010, p. 132
  18. ^ ジョシュア・フォア 2010, p. 133
  19. ^ a b c UNEP-WCMC 2012, p. 1
  20. ^ a b c d Sangha-Nouabalé-Ndoki | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2009年3月4日). 2023年4月6日閲覧。
  21. ^ a b c d Partie camerounaise du fleuve Sangha | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2008年2月2日). 2023年4月6日閲覧。
  22. ^ Riviere Sangha située en République Centrafricaine | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2009年11月5日). 2023年4月6日閲覧。
  23. ^ ステファン・ブレイク 2012, pp. 20–21
  24. ^ ドン・ベルト 1999, pp. 144–145
  25. ^ a b UNEP-WCMC 2012, p. 8
  26. ^ UNEP-WCMC 2012, pp. 4–5
  27. ^ a b c d UNEP-WCMC 2012, p. 5
  28. ^ a b Sangha Trinational” (英語). UNESCO World Heritage Centre. 2023年5月9日閲覧。
  29. ^ Proposition d’inscription sur la liste du patrimoine mondial 2012: Trinational de la Sangha, p. 24.(フランス語)2018年5月21日閲覧。
  30. ^ a b c d e f g h i j Proposition d’inscription sur la liste du patrimoine mondial 2012: Trinational de la Sangha, p. 31.(フランス語)2019年4月28日閲覧。
  31. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 熱帯植物研究会 編 (1996).
  32. ^ ウォーカー (2006:133).
  33. ^ a b ウォーカー (2006:162).
  34. ^ 河村・西川 (2014:232)
  35. ^ ウォーカー (2006:84).
  36. ^ a b 河村・西川 (2014:207).
  37. ^ ウォーカー (2006:93).
  38. ^ 河村・西川 (2014:150).
  39. ^ ウォーカー (2006:94).
  40. ^ ウォーカー (2006:118).
  41. ^ a b ウォーカー (2006:108).
  42. ^ ウォーカー (2006:124).
  43. ^ ウォーカー (2006:185).
  44. ^ Harvey-Brown, Y. (2019). Greenwayodendron suaveolens. The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T62584A149068212. doi:10.2305/IUCN.UK.2019-2.RLTS.T62584A149068212.en. Downloaded on 07 June 2021.
  45. ^ 河村・西川 (2014:127).
  46. ^ ウォーカー (2006:47).
  47. ^ Groom, A. (2012). Bobgunnia fistuloides. The IUCN Red List of Threatened Species 2012: e.T33061A20029309. doi:10.2305/IUCN.UK.2012.RLTS.T33061A20029309.en, Downloaded on 7 June 2021.
  48. ^ 河村・西川 (2014:174).
  49. ^ 河村・西川 (2014:138).
  50. ^ ウォーカー (2006:130).
  51. ^ 河村・西川 (2014:129).
  52. ^ ウォーカー (2006:142).
  53. ^ Appendices (CITES). 2018年5月21日閲覧。
  54. ^ a b World Heritage Centre 2012, p. 156より一部を翻訳の上、引用。
  55. ^ UNEP-WCMC 2012, p. 6
  56. ^ IUCN 2012, p. 46
  57. ^ a b ステファン・ブレイク 2012, pp. 90–92
  58. ^ a b 「売られる野生動物 / 肉の消費急増」「食い尽くされる森 密猟手当たり次第 市場へ」『朝日新聞』2012年10月29日朝刊1・2面





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